私が投資家のためになる書籍の紹介依頼を頂いた時に頭に浮かんだのは、『マーケットの魔術師』・『新マーケットの魔術師』・『マーケットは何故間違えるのか』などだったのですが、これらの良書は既に諸先輩方によって書評がなされていましたので若輩者の私は別の視点からのものをと考えました。そこで思い付いたのがこの『経済・情報・生命の臨界ゆらぎ』です。投資関連の書籍としては異質ながら、定性的な観点から相場をより深く理解するのに最適ではないかと考えたのです。
最近、「エコノフィジックス:経済物理学」という新しい学問が一部で話題になっ
ています。「金融工学」がオプションのプライスを簡単にする為に価格変動をランダムであると仮定したところからスタートして、その使い勝手の良さから大きく発展していきましたが、実際の相場の変動とそぐわない面もありました。「エコノフィジックス」は現実の価格変動を観察して「複雑系・カオス・フラクタル」という物理学・数学を駆使し相場の本質を研究している、発展しつつある学問です。近い将来、次の世代を担う学問になる可能性もあるとも思っています。
そして、この分野の日本を代表する方が、この書籍の著者である高安氏です。高安氏は、この新しい学問の創設者の一人です。また、既にこの書評欄に出ておられる真鍋氏や『マーケットサバイバル』をお書きになった久保田氏、某外国証券支店長の倉都氏のサイトなどに行かれると、それぞれの方々の考え方に触れることができます。余談ですが、時折「エコノフィジックス・フォーラム」も上記の方々の尽力で開催されています。
この本は、トレーダーが既に経験によって知ってはいるが既存の「金融工学」等で
否定されていること、例えば値動きのフラクタル性や、価格変動の非正規性、効率市場仮説の無視、などが理論的に書かれています。これら値動きの性質は、「相場で勝てるか」との命題に対して読者それぞれに、いろいろなヒントを与えてくれることになると思います。物理学をベースに書かれている本なので、取っ付きにくいとは思いますが比較的分かりやすくかかれており「エコノフィジックス」や「複雑系」の入門書としても優れていると思われます。
よって、「エコノフィジックス」に興味を持たれた方、もしくは相場の定性的な性
質を「複雑系・カオス・フラクタル」という視点から知りたい方などには最適であろうと思います。そして、この本を読み「複雑系」や「エコノフィジックス」に興味を持たれましたら、より難解な『複雑系と相場:トニス・ヴァーガ著』を読まれると更なる相場への理解が進むと思われます。また、私の拙い書評では心もとないので先に上記お三方のサイトを参考にされると間違いがなく良いかも知れません。
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