本書が追及するのは、人生のどんな局面においても変わらず使える方程式である。つまり、誰もが不運を遠ざけて、幸せになるためのものである。そのためには、人とのつながりや自分自身の考えや行動が重要になる。
幸運はいつ訪れるかわからない。ならば、その幸運がくる確率を上げ、そのときにしっかりつかめる体制にしておく必要がある。多くの人を幸運に導いてきた本書が、その方法を教えてくれる。
※本書は『ツキの科学』(PHP研究所)を改題・再編集して復刊したものです。
新版によせて
「運は何にも勝る最高の力だ」―スタン・リー
人生に成功する条件とは、はたして何だろうか。実際に大きな成功を収めた人たちにはどのような秘密があるのか。それを知りたい人はきっと多いだろう。
すでに成功した人をよく見れば、成功の秘訣が学べるはずだと私たちは考えがちである。その人の持っている特質―生まれつきの才能、身につけたスキル、勤勉さ、粘り強さ、楽観主義、常に成長しようとする姿勢など―が今の成功につながったと考える。
しかし、本当にそうなのだろうか。
実際には「運」の役割も大きいのではないだろうか。だが、運に注目が集まることは少ない。
私たちは成功した人の話は聞くが、失敗した人の話を聞くことはあまりない。ジェニファー・アニストンとサンドラ・ブロックはどちらも有名な映画スターだが、そうなる前は二人ともウエートレスをしていた。ロサンゼルスには二人以外にも無数のウエイターやウエートレスがいるが、その中に映画スターになる者はほとんどいない。マーク・ザッカーバーグのようなIT起業家も無数にいるが、大半は長年懸命に努力をしたとしても、見るべき成果を上げられない。
あなたの周りにも「いつも運の良い人」がいるのではないだろうか。どこへ行っても面白い人に出会い、どこでも何かと得をする。たいした努力もせずに、自分のしたい仕事をしている。友人や同僚の中にそういう人が一人はいるに違いない。その人には、あなたにはないような良いことが何度も起きる。
だが、運の良い人、悪い人は本当にいるのだろうか。もし、いるとしたら、運の良い人になる方法はあるのだろうか。
その答えは、「ある」だ。
適切な行動さえ取れば、幸運が訪れる確率を上げることができる。運の良い人は、生まれつきそうなのだと思っている人は多いだろうが、そうではない。著者のマックス・ギュンターは、「どう行動すれば、運を良くできるか」を、本書の中で具体的に教えてくれる。
運の良い人は、まず運が良くなる場所に自分の身を置いている。物事の動きが早く、活発な場所にいるので、その分、幸運に出合いやすくなる。できるだけリスクが小さく、リターンの大きい挑戦を積極的に何度も繰り返している。
また、いつも自分よりも賢明で優秀な人たちと関わっている。目標を達成するには、いわゆる「セレンディピティ(思いがけない幸運)」が必要なこともよく知っている。だから、イベントやパーティー、ミーティング、カンファレンスなどの場にできるだけ出席し、常に心と目を開いて、セレンディピティに出合った時、それに気づけるようにしている。偶然の出来事を有効に生かせる生き方をしているということだ。
リスクは厭わないが、その大きさは事前によく考えている。
目標を定めたら、達成のために粘り強く努力をするが、希望がまったくないとわかればあっさりとあきらめる。「強い信念は持つが、執着しすぎることはない」のだ。
簡単に言えば、幸運な人は人生の流れに逆らわず、流れに従って生きている、ということである。
偶然に何か良いことが起きた場合には、それを最大限に生かす。一方、何か悪いことが起きた場合には、その悪影響を最小限に抑える。後者は特に重要だ。幸運を追い求めるよりも、不運を避ける術を学ぶ方が大事だと言ってもいい。そして不運を最小限にすれば、幸運は訪れやすくなるだろう。
チャーリー・マンガーは「自分がどこで死ぬのか知りたい。そうすれば、そこにはけっして行かないから」(『完全なる投資家の頭の中』パンローリング)と言っているが、まさにそういうことだ。
幸運を引き寄せるには、慎重な楽観主義と健全な悲観主義が必要になる。この本を読めば、幸運に出合う確率を高める方法もわかるが、もっと大事なのは、どこに不運が潜んでいるかがわかるということだろう。
チャンスは誰にでも訪れるが、必要な準備がなければ、せっかくのチャンスを生かすことができない。古代ローマの哲学者、セネカは「幸運とは、準備と機会とが出合った時に訪れるものだ」と言っている。確かにその通りだろう。単純に「良いことが起きる」というのとは違う。ただ良いことがちょうど良い時に起きただけでは不十分だ。それに対応する準備ができていなくてはいけない。
心理学者のリチャード・ワイズマンは、四〇〇人を対象に一〇年にわたる追跡調査を実施した。その間、どのような幸運、不運がそれぞれの人に訪れるかを観察し続けたのだ。四〇〇人の中には他より運の良い人も悪い人もいたが、一定の原則を守れば、自分である程度、幸運を増やすことも可能だとわかった。
「幸運な人は、いくつかの原則を守ることで自ら幸運を増やしている。自分で機会を生み出すことができ、また機会の訪れを察知することにも長けている。直感に従って運が良くなるような決断をする。良い期待を持って、その期待を自己成就させることもできる。弾力性、回復力があり、仮に何か不運に見舞われたとしても、それを幸運に転換させることができる」
ひとまず健康で、生計の手段を持っている人であれば、誰にでも幸運になる機会は訪れるだろう。あとは、自分が生きていく中で日々、どういう選択をするかにかかっている。自由な社会で暮らしている人は、それだけでかなり幸運だと言えるだろう。
幸運は常にあなたの周りにある。気づいている、いないにかかわらず、良いことは絶えずあなたに起き得るのだ。
幸運な人は総じて生来、楽観的で、自分には良いことが起きるだろうと思っている。楽観的な人は幸運になりやすい。良いことが起きると信じていると、実際に良いことが起きる確率は上がるからだ。また、楽観的な人は、多少、良くないことがあっても、すぐにまた良いことがあると信じているので耐えやすいし、早く立ち直ることもできる。
結局、幸運な人とは、自分の幸運に気づくことができ、自分の今の境遇に感謝できる人のことだろう。自分がお金で買えない「贈り物」をすでにたくさん持っていることに気づけるかどうかが大事だ。
また私は、幸運になるためには、まず、「自分らしくある」ことが大切だと思っている。仕事や投資で何か失敗したとしても、愛する家族がいて、健康にも恵まれていれば幸運だと言えるし、それに感謝すべきだろう。
マックス・ギュンターの業績は、私が自分の著書で運や偶然、セレンディピティ、ランダムネスなどについて書く時に大いに助けになった。すでに古典的名著となった本書を読めば、私と同じように多くのことを学べるに違いない。
ゴータム・ベイド
『ザ・ジョイズ・オブ・コンパウンディング』の著者
アメリカ、ソルトレイクシティ
はじめに
運をめぐる不思議な旅
私たちはこれから旅に出る。旅の目的は、「運」とは何かを探ることだ。
おそらく、運とは何かを真剣に探究したことのある人は多くないだろう。探究の対象になり得ると思っている人自体が少ないと思う。考えてもわかりようのないこと、と思っている人が大半のはずだ。そう思う人にとって、運は、有無を言わさず人生を変えてしまうものであり、自分の力ではどうすることもできないもの、自分の能力を超えたものということになる。
幸運も不運も、誰にいつどのようにやってくるかはまったくわからない。それを知ろうとするのは、海の波がいつどこにどのようにできるかを知ろうとするのに似ている。運に何か秩序のようなものを見出そうとしても、なぜ運が良くなったり悪くなったりするのかを知ろうとしても、そんな試みがうまくいくはずはない―そう感じる人は多いに違いない。
しかし、この本を読み、私と一緒に旅をした人は、旅が終わる前に気づくだろう。運というのは、思ったほど「つかみどころのないもの」ではない、と。運は、限られた範囲ではあるけれど、自分の意志と行動によって、確かに思い通りに変えられるものなのだ。なぜそう言えるのかも、はっきりと説明ができる。
「運を思い通りに変える」というのはつまり、幸運に恵まれる確率を上げ、不運に見舞われる確率を下げる、ということだろう。そのために私たちは、まず自分を変えなくてはならない。自分の発想や態度、行動にいくつか変革を起こさなくてはならないのだ。小手先の変化ではなく、根本的な変革だ。変革の一つひとつは独立したものではなく、互いに関係し合い、補完し合うものである。それがすべてあいまって、自分の運を少なくともある程度、良い方向に変えることができる。
私は二〇年以上にわたり、千人を超える人々の人生について調べ、また直接話も聞き、「運の良い人」と「運の悪い人」それぞれにどういう特徴があるのか、両者にどういう違いがあるのかを探ってきた。その結果、運の良い人には見られるが、運の悪い人にはほとんど(あるいはまったく)見られない、という特徴が主に五つあるとわかった。本書では、その五つがそれぞれどういうもので、運にどう影響するのかを、詳しく、誤解のないよう慎重に書いていくつもりだ。
五つの特徴は、簡単にまとめれば次のようになる。
一.社交性に富む
運の良い人は、多数の人と友好的な関係を築いている。幸運は常に他人からもたらされるものなので、多くの人とつながりを持つほど、幸運が訪れる可能性は高まることになる。
二.直感力がある
運の良い人は、目に見える以上の何かを察知する能力を持っている。多くの場合は、無意識のうちにその能力をはたらかせている。
三.勇気がある
運の良い人は、目の前にチャンスが訪れたら、確実にそれをつかみ取る。たとえ、それによって自分の人生設計が狂うことになっても、勇気を出して一歩踏み出す。そのため、運の良い人は「ジグザグ」な人生を歩むことが多い。
四.ラチェット効果をはたらかせる
運の良い人は、自分のしていることが悪い方向に転がり始めたときや、状況が悪化し始めたときには、素早くその場から逃げ出すことができる。そのため、ひどい不運に見舞われることは少ない。
五.悲観的推測に基づいて行動する
「運の良い人は楽観的な人」というイメージがあるが、実際にはまったく楽観的ではない。運の良い人は、自ら意識して、極端なほど悲観的な態度を貫いている。いつ良くないことが起きるかわからない、と思って行動することが、幸運につながっているのだ。
私も、運の良い人たちにこういう特徴があると、はじめから思っていたわけではなかった。彼らの行動や信条に直接触れることでわかったのだ。最初のうちは驚いたし、ずいぶん戸惑ったりもした。きっと読者のなかにも驚く人が多いだろうと思う。また彼らが、昔ながらの倫理観からすると好ましくない行動をとっているように見えることもある。実は、そういう倫理に従うと、幸福になるどころか不幸を招くことも多いのだ。それを知って困惑する読者も少なくないだろう。
たとえば「勇気を出して一歩踏み出す」行動は、古い倫理観を持つ人には、軽はずみ、向こう見ずと思われやすい。そして、一歩踏み出すために彼らがうまく「迷信」を利用する、というのも意外なことだろう。迷信に頼っても、それ自体は幸運にはつながらないが、合理的な判断がどうしても不可能なとき、迷信に頼って決断を下す(コインの表裏で決める、など)、というのは有効なのだ。
なぜ、この五つの特徴が大事なのかは、読み進めていくうちによくわかってもらえると思う。もちろん、書いてあることを鵜呑みにする必要はない。あくまで懐疑的な態度で、しかし、先入観や固定観念にとらわれずに読んでもらえればありがたい。常に心は冷静に、目は大きく開いて、ということが大事だ。
では、幸運を求めて旅に出よう。
マックス・ギュンター